鋳鉄の機械的性質は鋳鉄の化学成分や冷却速度の影響による。鋳物が凝固する時は鋳型の中で固まるのが普通であるから、鋳物の重量と肉厚が冷却速度を支配する。
性質の変化は化学成分より冷却速度の影響が大きい。
実用の鋳鉄は炭素、けい素、マンガン、りん、いおうを含んでいるがこれらの元素の影響について述べる。

第1節 炭素の影響

鋳鉄中の炭素は鉄と化合した炭化鉄(セメンタイト、Fe3C)と炭素が独立して存在する黒鉛(グラファイト)の二つの形で存在している。これらの二様になっている炭素を合計したものを全炭素量という。普通鋳鉄の炭素量は大体2.8~3.4%である。
黒鉛量が増加すると鋳鉄はやわらかくなるが黒鉛の形は片状或いは粒状として存在する。
炭素量が多い程黒鉛は大きな片状となり、機械的性質特に引張強さは弱くそしてもろくなる。その破面は黒鉛のため灰色を呈するのでこれをネズミ鋳鉄といっている。
逆に化合炭素が増加すると鋳鉄はかたくなり、破面はち密となり白色となるため白鋳鉄といっている。
鋳鉄は全炭素量が多いほど流動性をまし、溶融点も低下し、ガス吸収を減じて縮小も少なく、非常に鋳物をつくりやすい。
炭素量が2.5%以下になると鋳鉄の収縮も大となり、割れや引け巣の発生が多くなるので、鋳物をつくりにくくする。

第2節 けい素の影響

けい素は炭素を最も黒鉛化する元素で炭化鉄を分解するはたらきが強い。
普通鋳鉄には1.5~2.5%含まれ、流動性が良くなり、収縮も少なく、脱酸作用も行ない、鋳造性を改善する。
鋳鉄中の炭素とけい素の量は鋳鉄の種類や形状、肉厚によって適当に選択せねばならない。鋳物の冷却速度が遅いと炭素が黒鉛化しやすいため、肉厚の鋳物は炭素が黒鉛の形で折出し、そのため軟らかくなる。
反対に肉厚の鋳物では冷却速度が速いので炭素が黒鉛化しにくく、炭素は炭化鉄の形で折出する。
たとえば肉薄の鋳物では炭素とけい素量を多くし、肉厚の鋳物ではこれらを少なくする。
鋳物の肉厚とけい素量との関係を表2・1に示した。

表2・1 鋳鉄鋳物の肉厚とけい素量

鋳物の肉厚(mm)51020304050607080100150200
けい素量%2.82.22.01.81.61.51.41.31.251.21.11.0

鋳物の種類別の炭素とけい素を表2・2に参考までに示した。
又けい素は特殊元素として加えて耐酸性、耐熱性を改善する。けい素6%まで耐熱性として作用し、13~15%まで耐酸性を増すがこのものは極めてかたくてもろい。

表2・2 各種鋳物の炭素およびけい素量

鋳物の種類炭素量%けい素量%
可鍛鋳鉄鋳物2.0~3.00.5~1.5
チル鋳物2.5~4.00.3~1.5
ネズミ鋳物3.0~4.00.8~2.5
合金鋳物1.5~3.00.5~1.6
球状黒鉛鋳物2.5~4.51.0~2.5

 

第3節 マンガンの影響

鋳鉄中にはマンガンを0.4~1.0%含んでいる。マンガンはいおうの害を防ぐために、溶銑中に入れるといおうと化合して硫化マンガンを作り、湯の表面に浮くのでいおうを取り除く役目をはたす。その必要量はいおうの約3倍といわれているが実際にはこの量よりも0.2~0.3%多量に加える。
硫化マンガンを形作らないマンガンは黒鉛の折出をさまたげるので、鉄とマンガンの炭化物となる。またマンガンは組織をち密にし、鋳鉄の強さ、かたさを増すはたらきをする。またマンガンは焼入効果を増すはたらきもするし、その量が1%以上になるとチル化するようになる。
鋳造性におよぼす影響としては、流動性を低下し、収縮を大にする欠点もあるが、溶銑中のガスを除去する。

第4節 りんの影響

鋳物にはりんが0.05から、1.0%位まで入っている。薄肉鋳物、美術鋳物などでは1%前後、ピストンリング、ブレーキシューライナーなどでは0.5%程度、機械鋳物では0.2%以下である。
一般にりんは鋳物に有害であり、鉄と化合してステダイト(Fe3P)を形成する。
これは切削性を減少させ、鋳物に巣をつくりやすくすると同時に非常にもろくする。
しかし流動性を良好にするがその効果は炭素の約1/3である。りんは鋳鉄をかたくし、強さをますので耐磨耗性を向上させる。

第5節 いおうの影響

いおうは鋳鉄の凝固点を高くするので湯の流動性を悪くする。また炭化鉄をまして鋳物をかたく、もろく、収縮を増し、割れを発生しやすくするので、いおうは出来るだけ少ない方がよい。
マンガンが充分に存在すればいおうは0.18%まであっても、鋳鉄に害を及ぼさないが普通の鋳鉄では0.1以下にとどめるようにする。しかし利点として切削性を僅かに良好にするのと、磨耗に対してよいことである。

第6節 合金元素の影響

ニッケル、クロム、モリブデン、銅、バナジュームなどの合金元素は鋳鉄の組織や性質を向上するために少量加える。
合金元素は一般に炭化物を安定にするものと黒鉛化を促進するものに大別できる。
炭化物を安定にする合金元素
クロム、バナジュウム、モリブデン、テルル、マグネシウム、セリウム
黒鉛化を促進する合金元素
アルミニウム、ニッケル、銅、チタン、ジルコニュム

1.クロム

クロムは炭化物を安定にし組織をち密にするので鋳鉄の性質を改良する。一般にクロムは0.15~0.9%加えるが特殊な目的で鋳鉄の酸化や成長を防ぐのに1.5~2.0%また耐熱鋳鉄では数10%のクロムを含有している。

2.銅

銅は鋳鉄中の黒鉛化に役立つがその能力はけい素の1/10位である。
引張強さ、抗折力によい影響をあたえる。また銅は耐磨耗性、耐摩擦性、耐衝撃性も増加する。

3.モリブデン

モリブデンもクロムと同様に炭化物を安定化するがその影響は少ない。
アシキラー鋳鉄はモリブデンを加えて熱処理し組織をベーナイト化したものであるが、このようにモリブデンは焼入効果をまし、鋳鉄をかたくする。

4.ニッケル

ニッケルは黒鉛化を促進する元素でチルを防いで切削性を良好にする。
ニッケルが1%以下では黒鉛の粗大化を防ぎ組織をち密にし、機械的性質を著しく改善する。

5.バナジウム

バナジウムはクロムと同様に炭化物を安定にする。鋳鉄中の黒鉛の分布を均一にすると共に黒鉛の折出をさまたげるので黒鉛は小さくなる。そのために機械的性質が著しく改良されるが、チル深さも増加する。

第7節 ガスの影響

鋳鉄の性質はそれに含有しているガス(酸素、ちっ素、水素)によって影響するといわれている。これらのガスが多ければ鋳巣、気泡が出来る。
ガスの影響としておよそ次のように考えられている。
酸素-黒鉛化と密接な関係があり、炭化物を安定にする。
水素-黒鉛片の成長を助けると考えている人もいるがその反対をとなえている人もある。
ちっ素-ちっ素は鋳鉄の遺伝性も関係あると言われている。